防災リュックに軍手を入れている人は多いでしょう。政府広報でも、非常持ち出し品の例として軍手が挙げられています。では、地震後に割れた食器やガラス、金属片がある場所でも、その軍手をそのまま使えばよいのでしょうか。
手袋選びが難しいのは、「耐切創レベルが高ければ安心」とも言い切れないからです。耐切創手袋には切れにくさを示す規格がありますが、切創への強さと、突き刺し・グリップ・指先の操作性は別の評価です。今回比べる製品にも、18ゲージ・シームレス編みやタッチパネル対応をメーカーが案内しているものがあります。
この記事では、一般的な軍手の代表例と、耐切創レベルC・D・Fを確認できる3種類の手袋を比べます。軍手を万能とは見なさず、かといって規格のアルファベットだけでも決めません。避難中と片付けで手に何を求めるかから、自宅に備える手袋を考えます。
軍手は非常持ち出し品の例だが、割れたガラスへの防護性能まで意味しない
政府広報オンライン「災害時に命を守る一人ひとりの防災対策」では、非常持ち出し品の例として軍手が挙げられています。少なくとも、軍手は非常持ち出し品として検討される手袋の一つです。
一方、内閣府「特集 復興に向かう柏崎から」では、速やかに屋外へ避難するための備えとして「ガラスや瓦礫をかき分ける革手袋」が紹介されています。また、中部管区行政評価局の「災害ボランティア活動上の事故事例集(安全確保のポイント)」では、泥にガラスなどの鋭利な物が混ざる場面で、防刃性・耐切創性のある手袋を使う安全対策が示されています。
ただし、この事故事例集は災害ボランティア活動を対象にしたもので、家庭用手袋の選定基準を定めた資料ではありません。それでも、「防災用品に軍手が入っている」ことと「鋭利物を扱える防護性能がある」ことは、分けて考える必要があります。
地震直後に荷物を持って避難する場面と、落ち着いてから割れ物や災害ごみを片付ける場面では、手袋に求める役割が同じとは限らないからです。
耐切創レベルC・D・Fは「手袋の総合点」ではない
耐切創手袋でよく目にするのが、EN 388に基づくEN ISO 13997 TDM試験のA~Fという表示です。
Ansell「EN 388:手袋に関する欧州規格を理解する」では、EN 388で摩耗・切創・引裂・突刺などの機械的リスクを別々に評価し、EN ISO 13997 TDM試験では素材を切断するために必要な力を測る仕組みを解説しています。
この試験では、手袋の素材を切断するのに必要な力を測ります。AからFの順に耐切創レベルが高くなりますが、あくまで決められた切創試験での評価です。
EN 388には、耐切創のほかに摩耗・引裂・突刺など、別の機械的リスクの評価もあります。そのため、「レベルFだから釘の突き刺しにも最も強い」と読み替えることはできません。
ショーワグローブ「切創事故対策」でも、耐切創手袋を選ぶときは耐切創レベルだけでなく、手袋の厚み、コーティング、スベリ止めなども確認するよう案内しています。各商品には「全く切れないものではない」「使用条件により耐切創性が異なる」という注意もあります。
防災用として見る場合も、耐切創レベル・フィット・グリップ・操作性は別々に確認するのが基本です。

軍手と耐切創手袋3製品を、規格と操作情報で比較
今回は、一般的な軍手の代表例としてアトム「綿特軍手 201」を置き、耐切創手袋はショーワグローブの3製品を比べます。
- アトム 綿特軍手 201
- SHOWA No.549 耐切創パームX手袋
- SHOWA XC810 フォルテックスニトリルパーム手袋
- SHOWA S-TEX Alpha XC520
比較するのは、メーカー公式で確認できる耐切創情報、サイズ展開、編み方やコーティング、タッチパネル対応などです。価格や楽天市場の販売店は変動しやすいため、本文の比較には入れていません。
| 手袋 | 耐切創情報 | サイズ | 操作・グリップに関する公式情報 |
|---|---|---|---|
| アトム 綿特軍手 201 | 公式商品ページにEN ISO 13997の耐切創レベル記載なし | フリー | 7ゲージ、ポリエステル・綿・その他 |
| SHOWA No.549 耐切創パームX手袋 | EN ISO 13997 TDM試験 レベルC | S・M・L・XL | 発泡ポリウレタン手のひらコート、スベリ止め、シームレス編み |
| SHOWA XC810 フォルテックスニトリルパーム手袋 | EN ISO 13997 TDM試験 レベルD | M・L・XL | 18ゲージ、ニトリル手のひらコート、スベリ止め、タッチパネル対応 |
| SHOWA S-TEX Alpha XC520 | EN ISO 13997 TDM試験 レベルF | S・M・L・XL | 18ゲージ、発泡ポリウレタン手のひらコート、スベリ止め、タッチパネル対応 |
この表では、A~Fだけを縦に見て順位を付けないことが大切です。
アトム201は、メーカー公式ページに耐切創レベルの記載がない一般作業向けの軍手です。3つのSHOWA製品は耐切創レベルを確認できますが、コーティングやサイズ、タッチパネル対応の有無はそれぞれ異なります。
一般作業用の軍手として備えるなら|アトム 綿特軍手 201
アトム「綿特軍手 201」は、ポリエステル・綿・その他を素材にした7ゲージの軍手です。サイズはフリーで、メーカーは農作業、園芸、物流、清掃、土木建設、レジャー・アウトドアなど、各種汎用作業を用途に挙げています。
メーカー公式商品ページには、EN ISO 13997 TDM試験の耐切創レベルの記載がありません。
ただし、「レベル表記がない=何も保護しない」という意味ではありません。切創性能を規格値で確認できない製品、と整理するのが正確です。
非常持ち出し袋に軍手を入れることと、割れたガラスや鋭利な金属片を扱う作業用として選ぶことは、分けて考えます。
レベルCと手のひらのスベリ止めを確認したいなら|SHOWA No.549 耐切創パームX手袋
SHOWA「No.549 耐切創パームX手袋」は、EN ISO 13997 TDM試験で耐切創レベルCと案内されている手袋です。サイズはS・M・L・XLがあります。
繊維部分には高強度ポリエチレン糸を使い、手のひらには発泡ポリウレタンをコーティングしています。メーカーは、このコーティングによるスベリ止め効果と、縫い目のないシームレス編みによる通気性を案内しています。
耐切創レベルを確認しつつ、物を持つときのグリップも見たい場合の比較対象になります。
メーカーは「全く切れないものではない」と明記しています。耐切創手袋を着けても、刃物や鋭利物に直接触れてよいわけではありません。
レベルDとタッチパネル操作を両方確認したいなら|SHOWA XC810
SHOWA「XC810 フォルテックスニトリルパーム手袋」は、EN ISO 13997 TDM試験で耐切創レベルDと案内されています。メーカー公式の商品ページでは、サイズはM・L・XLです。
18ゲージ・シームレス編みで、手のひらにはニトリルゴムをコーティングしています。メーカーは、スベリ止め効果に加えて、手袋を着けたままタッチパネルを操作できることも案内しています。
防災では、手を守るだけでなく、ライトや防災リュックを扱ったり、スマートフォンで連絡や情報確認をしたりする場面があります。この製品を見る意味は、耐切創レベルと操作に関する仕様を同時に確認できる点にあります。
なお、タッチパネル対応は、耐切創レベルDより上か下かを決める指標ではありません。防災時に想定する操作に合うかを見る、別の軸です。
レベルFでも「最も防災向き」とは決めない|SHOWA S-TEX Alpha XC520
SHOWA「S-TEX Alpha XC520」は、EN ISO 13997 TDM試験で耐切創レベルFと案内されています。A~FのTDM評価では、Fが最も高い区分です。
サイズはS・M・L・XL。18ゲージ・シームレス編みで、手のひらは発泡ポリウレタンコーティングです。メーカーはスベリ止め、タッチパネル対応、洗濯して繰り返し使用できることも案内しています。
ここで注意したいのは、レベルFは「防災用手袋の総合1位」という意味ではないことです。Fは切創試験の評価であり、耐突刺性など別の性能まで最高という意味ではありません。
XC520についても、メーカーは全く切れないものではないと注意しています。より高い耐切創レベルを求める場合でも、サイズ、グリップ、操作性、実際に想定する作業をあわせて確認します。
避難中と片付けでは、手袋に求める役割を分ける
防災用手袋を1双だけ選び、「これで避難も片付けも全部まかなう」と考える必要はありません。
避難中は、防災リュックを持つ、ドアやファスナーを開ける、ライトを操作するなど、手を使う動作が続きます。この場面では、自分の手に合うサイズ、物を持つためのグリップ、必要な機器を操作できるかが判断材料になります。
一方、地震後の片付けで割れたガラスや金属のエッジ、災害ごみに触れる可能性があるなら、切創リスクを別に考えます。「災害ボランティア活動上の事故事例集」でも、ガラスによる手のけがが報告され、「軍手だけではNG」とする注意が示されています。
それでも、耐切創手袋を着ければ鋭利物を直接つかんでよいわけではありません。危険物に不用意に手を近づけず、作業場所を整理し、必要に応じて道具を使うところまで含めて考えます。
たとえば、夜に停電し、玄関から防災リュックを持ち出す場面を想定します。
平時のうちに手袋を着け、リュックのファスナーを開ける、ライトのスイッチを押す、スマートフォンを操作するところまで試しておくと、「手袋を着けた状態で何ができる必要があるか」が具体的に見えてきます。
XC810とXC520は、メーカーがタッチパネル対応を案内しています。アトム201とNo.549の公式商品ページでは、同じ案内を確認していません。耐切創レベルとは別に、自分に必要な操作の仕様まで見ておくと良いです。
高い耐切創レベルだけで選ばず、サイズと作業内容を先に決める
家族分の手袋を備えるときは、「耐切創レベルが高い製品を人数分」という決め方だけでは足りません。
サイズ展開は、No.549とXC520がS・M・L・XL、XC810がM・L・XLです。一方、今回の軍手201はフリーサイズです。表記が違うので、誰がどの手袋を使うかを決めてからサイズを選ぶことになります。
メーカーが案内する仕様を見ても、耐切創レベルのほかに、スベリ止め、コーティング、編み方、タッチパネル対応など、確認できる要素は複数あります。
「軍手か耐切創手袋か」を一度に決めようとするより、避難時にどんな動作をするか、片付けでどんな危険物に近づく可能性があるかを先に考えるほうが、必要な手袋の条件は見えやすくなります。
まとめ|軍手を万能にせず、作業と危険に合わせて手袋を分ける
軍手は、政府広報でも非常持ち出し品の例に挙げられている基本的な備えです。ただ、それだけで鋭利なガラスや金属片を扱う防護性能まで確認できるわけではありません。
耐切創手袋では、EN ISO 13997 TDM試験のC・D・Fといったレベルを確認できます。これは切創試験の評価であり、手袋の総合的な安全順位ではありません。
今回の代表例でも、No.549はレベルCとスベリ止め、XC810はレベルDに加えて18ゲージ・タッチパネル対応、XC520はレベルFに加えて18ゲージ・タッチパネル対応と、確認できる仕様はそれぞれ違います。
「何をする場面か」→「どんな危険があるか」→「耐切創規格と操作性を確認する」の順に考え、必要なら用途の違う手袋を分けて備える。これが、軍手を万能と見なさない防災用手袋の選び方です。
