災害が起きたら、「避難所へ行くか、自宅に残るか」の二択で考えてしまいがちです。ですが、最初に決めるのは、避難生活をどこで送るかではありません。今いる場所から危険を避ける必要があるかです。
自宅が安全な場所にあり、建物にも倒壊などのおそれがなく、水・トイレ・温度環境といった生活の条件も確保できるなら、在宅避難は選択肢になります。一方、自宅が無事に見えても、周囲に災害リスクがある、建物に危険がある、生活条件を維持できないといった場合は、別の安全な場所へ移る判断が必要です。
この記事では、二択を先に決めるのではなく、危険から離れる必要があるか→自宅は安全か→生活を続けられるか→必要な支援を受けられるか、の順に整理します。在宅避難も、一度選んだら最後まで続けるものとは考えません。
在宅避難か避難所かを決める前に、「危険から離れる必要があるか」を見る
内閣府の「避難情報に関するガイドラインの改定(令和8年3月)」では、警戒レベル4の避難指示までに、危険な場所から避難することが基本とされています。一方、内閣府の「避難行動判定フロー」には、安全な場所にいる人まで避難場所へ行く必要はないという考え方も示されています。同じフローでは、自宅の災害リスクと取るべき行動を平時に確認するよう示されています。
ここで押さえておきたいのは、「在宅避難できるか」と「今すぐ危険から離れる必要があるか」は別の判断だということです。在宅避難という言葉を、自宅にとどまってよい理由として先に使わないほうが、判断を整理しやすくなります。
まずは、自治体の避難情報と、自宅周辺の洪水・土砂災害・高潮・津波などのリスクを確認します。国土交通省・国土地理院の「ハザードマップポータルサイト」から、重ねるハザードマップや市町村が公開するハザードマップを見ることができます。
洪水については、内閣府の避難行動判定フローに、浸水リスクのある場所でも自宅に留まって安全を確保できる場合が示されています。確認する項目は、家屋倒壊等氾濫想定区域に入っていないこと、居室が想定される浸水深より高いこと、水が引くまで生活できる備えがあることです。
ただし、これは洪水時の屋内安全確保を考えるための条件です。土砂災害、津波、火災、建物の損傷などに、そのまま当てはめることはできません。災害の種類ごとに、自宅にとどまること自体が安全かを先に確認する必要があります。
| 判断の順番 | 確認すること | 次の考え方 |
|---|---|---|
| 1. 周囲の危険 | 避難情報、ハザードマップ、洪水・土砂・高潮・津波など | 危険な場所なら、まず危険から離れる |
| 2. 自宅そのもの | 倒壊のおそれ、火災など、自宅で安全を確保できる状態か | 自宅が安全でなければ別の安全な場所へ移る |
| 3. 生活の継続 | トイレ、水・食料、暑さ寒さ、睡眠、衛生など | 代替手段を確保できなければ避難先の変更を考える |
| 4. 支援への接続 | 情報・物資の受け取り方、家族・ペットなど個別条件 | 必要な支援につながれる場所・方法を確認する |

自宅が無事でも、「そこで生活を続けられるか」は別に確認する
地震では、建物が大きく壊れていなければ、そのまま自宅にいたいと考える人もいるでしょう。政府広報オンラインの「首都直下地震に備えよう!起こりうる被害、そして被害を抑えるためにできることは?」では、首都直下地震を想定した説明のなかで、自宅に倒壊などのおそれがなく安全に過ごせる場合は在宅避難をする、という考え方を示しています。
ただし、「建物が残っている」ことと「数日間そこで生活できる」ことは同じではありません。在宅避難を続けられるかどうかは、生活に必要な機能がどこまで残っているかで変わります。
確認したいのは、トイレ、水・食料、暑さ寒さ、睡眠、衛生です。たとえばマンションでは、室内の蛇口から水が出なくなるだけでなく、排水設備の安全を確認できるまで水洗トイレを流さないほうがよい場面があります。「マンションで断水したらトイレはどうする?流さない理由と臭い・保管対策」の記事では、「水があるから流せる」と考えないための判断を整理しています。

水や食料は、在宅避難を続けられる時間に直結します。必要な備蓄日数については、「防災備蓄は何日分必要?なぜ『最低3日・できれば1週間』なのか」の記事で、公的な備蓄目安の意味を整理しています。

温度環境も、建物の安全とは別の条件です。冬の停電で暖房が使えない場合は「冬の停電で暖房が使えないとき何を備える?電気を使わない防寒グッズを比較」の記事、夏の停電で風を確保したい場合は「夏の停電に備える充電式扇風機はどう選ぶ?連続使用時間・設置方法で比較」の記事で、季節ごとの備えを確認できます。


在宅避難は、一度決めたら最後まで続けるものではない
在宅避難を始められたとしても、その判断が翌日も同じとは限りません。断水や停電が長引く、トイレの代替手段が足りなくなる、室温を保てなくなるなど、時間の経過で生活条件が変われば、避難先も見直す必要があります。
「自宅が安全だったから在宅避難」と決めたあとは、「今も安全か」と「今日も生活を続けられるか」を分けて見直します。自宅に残ること自体を目的にせず、生活を続ける条件が崩れたら、安全な親戚・知人宅や指定避難所など、別の避難先へ移る選択肢を持っておきます。
たとえばマンションで大きな地震に遭い、その時点では自宅で安全に過ごせる状況だったため、その夜は自宅で過ごしたとします。
ところが翌朝も断水が続き、水洗トイレを使えるか確認できません。停電も続き、季節によっては室温の維持も難しくなってきます。前日に「自宅で大丈夫だった」というだけで、そのまま数日間の在宅避難を決める場面ではありません。
手元の水、携帯・簡易トイレ、食料、暑さ寒さへの備えを見直し、このまま生活を続けられるかを確認します。足りない条件を補えないなら、安全な親戚・知人宅や指定避難所などへ移る判断に切り替えます。
避難先は「避難所」だけではない
内閣府の避難行動判定フローでは、危険から離れる避難先として、市町村の指定緊急避難場所のほか、安全な親戚・知人宅やホテル・旅館なども選択肢に挙げられています。
「自宅か避難所か」の二択にすると、実際に選べる避難先を狭く考えてしまいます。まず危険を避け、そのあとでどこで避難生活を続けるかを考えれば、安全な場所へ移ることと、指定避難所で生活することを分けて判断できます。
また、災害が落ち着いたあと、自宅が被災して帰れない場合に生活する場所として使われるのが指定避難所です。危険が迫っているときに逃げる場所と、その後の避難生活を送る場所は、同じとは限りません。
ペットと一緒に避難する家庭では、避難先の条件をさらに確認する必要があります。「ペットの同行避難とは?避難所で一緒に過ごせるとは限らない理由」の記事では、「同行避難」と、避難所で同じ部屋に過ごせることを分けて整理しています。

在宅避難でも、情報や物資につながる方法を確認しておく
在宅避難は、自宅だけですべてを賄うという意味ではありません。内閣府は「在宅・車中泊避難者等の支援の手引き」を自治体向けに示しています。在宅避難者も必要な支援を受けられるよう、支援拠点での食事・物資の支援や情報提供などを平時から検討する、という考え方です。
ただし、実際の支援拠点、物資の受け取り方、情報提供の方法は地域や災害の状況によって異なります。在宅避難を選ぶなら、情報をどこから受け取り、必要になったときにどこへつながるかまで確認しておくことが、孤立を避ける判断になります。
自治体の防災情報、避難所・支援拠点の案内、給水や物資配布の情報を受け取れる手段を平時から確認しておくと、「自宅にいる=支援情報から離れる」という状態を避けやすくなります。
在宅避難の判断は「安全→生活継続→支援」の順に考える
在宅避難を選べるかどうかは、「自宅が好きだから」「避難所が大変そうだから」といった理由だけでは決められません。判断の順番を固定すると、確認すべきことが見えやすくなります。
まず、自宅や周囲に災害の危険があり、そこから離れる必要があるかを確認します。次に、自宅そのものが安全なら、トイレ、水・食料、暑さ寒さ、睡眠、衛生など、生活を続ける条件を確認します。そのうえで、情報や物資など必要な支援につながれるかを見ます。
避難生活で床の硬さや寝具が問題になる場合は、「避難所用マットはエアマットと折りたたみ式どっち?厚さ・収納・設営で比較」の記事や「防災用は寝袋と圧縮毛布どっち?避難所・在宅避難の寝具を比較」の記事で、避難所と在宅避難の両方を想定した寝具の選び方を整理しています。


在宅避難は「避難所へ行かない」という結論ではなく、安全な場所で生活を続けられるかをその都度確認する選択肢です。条件が変われば避難先を変えてよい、と考えておくほうが、災害時の判断を固定しすぎずに済みます。
まとめ|「自宅か避難所か」ではなく、安全と生活条件から決める
在宅避難を考えるとき、最初から「避難所へ行くか、自宅に残るか」の二択にする必要はありません。
まず危険から離れる必要があるかを確認し、自宅が安全であれば、そこで生活を続けられる条件があるかを見ます。トイレ、水・食料、温度環境などが維持できず、代替手段も確保できない場合は、在宅避難にこだわらず、別の安全な避難先へ移ります。
危険から離れる→自宅の安全を確認する→生活を続けられるか見る→必要なら避難先を変える。この順で考えれば、在宅避難と避難所のどちらかを最初から正解にする必要はなくなります。
